?みなさんこんにちは。生活者と小売の未来研究会の和田康彦です
まだまだ新型コロナウイルス感染拡大の収束は見えてきませんが、このコロナ禍を機に、消費者のモノの買い方や選ぶ基準が大きく変化してきています。
中でも、価格は高くても本当に毎日の生活を快適に楽しくしてくれるものを選ぶ人が増えており、利便性だけでなく、感情的なベネフィットを得られる商品をお客様は求めていらっしゃいます。
このような傾向は、東日本大震災がきっかけに生まれ、このコロナ禍で加速しています。
憧れの人が持っているから、カッコイイからという動機だけでモノを買うことは少なくなり、自分が興味を持ったもので長く使えるものを選ぶという消費傾向に変わってきているのです。
特に、若者の間に身の周りのものを吟味して揃えたいという人が増えています。その背景にはSNSの普及が影響しており、インスタグラムやユーチューブ、ツイッターで個人が発信したものに共感し、その輪が広がっていることがあります。
消費者の共感を誘うためには、企業姿勢やモノ自体の魅力や背景を丁寧に伝えていくことが重要です。
ニューノーマル時代が始まり、消費市場が過渡期を迎えた今、感度の高い消費者には、企業がつくり上げたブランドの本質だけでなく、掲げているビジョンや思想、そこで働く人の姿勢までもが透けて見え始めているからです。
●300年続く老舗工芸品店「中川正七商店」の共感経営
1716年創業、奈良で300年続く老舗工芸品店「中川正七商店」は、江戸時代「奈良晒(さらし)と呼ばれた高級麻織物の問屋として誕生しました。
武士に好まれ幕府に献上したこともあり、明治時代には皇室御用達となりました。そして1925年のパリ万博では高い評価を得るものの、その後麻織物の需要が低迷し作り手も減少していきます。
2008年、廃業の危機を救うために、13代目中川正七氏が社長に就任。企業ビジョンの打ち出し、SPA業態への転換、全国に直営店を展開するなど次々に新たな施策を実行に移すことで、社長就任から8年で売上10倍以上という偉業を成し遂げます。
現在は、全国の伝統工芸メーカー800社と一緒になって、年間2000点以上の商品を開発・製造販売しています。
そして、東京ミッドタウン、コレド室町、GINZA SIXなど話題の複合商業施設に次々に出店し、ブランド力を高めています。
中川正七商店の成長を支えているのが「日本の伝統工芸を元気にする!」というビジョンです。
日本の伝統工芸には、技術と構造が理にかなった商品がいくつもあり、丁寧に作られた日本の工芸品からは作り手の熱い思いも伝わってきます。
このコロナ禍の元、外出自粛に伴い自宅で過ごす時間が増えています。特に、料理を始める人や台所を整える人が増加し、ふきんや土鍋、陶器でできた保存容器などが人気といいます。
値段が少し高くても毎日の台所仕事を愉しく、快適にしたいという消費者が、同社のモノづくりに共感して購入しているのだと思います。
今や100均にも似たような商品があるので、価格重視派からすれば不要不急の商品かもしれません。
しかし、中川正七商店では、これまでモノづくりの背景や作り手の思いを伝えることに注力してきました。
自社サイトでは「中川正七商店の読み物」を毎日配信。職人へのインタビューやデザイナーの開発秘話、社員が好きな自社商品の魅力、工芸品の構造的な解説などのコンテンツが充実しています。
この結果、読み物に興味を持ってもらい購入に至るケースも増えているようです。
さらに、昨年の緊急事態宣言の休業中には、インスタライブもスタート。九谷焼の窯元などのオンライン工場見学や暮らしを豊かにするヒントなどをライブ配信。2020年11月末までに16回配信することで、売り上げ・フォロワー数が増加しました。
また、バイヤー向けの合同展示会「大日本市」も2020年はオンライン開催。職人のトークイベント、工房探訪の動画、プロによる商品レビューなどオンラインならではのコミュニケーション活動に注力して、一般にも開放することで、さらなる中川正七商店ファンを育んでいます。
その結果、ECの売り上げが急増。2019年に4億だった売り上げは2020年は約12億、2021年は20億を計画するに至っています。
企業姿勢やモノ自体の魅力や背景を丁寧に伝える取り組みで顧客の共感を誘い、ファンづくりにつなげている中川正七商店の共感経営。あなたの会社でも、ぜひ参考にしてください。
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