機能的ベネフィット×情緒的ベネフィット×自己実現ベネフィットの総和が企業価値となる。

みなさんこんにちは、生活者と小売の未来研究会の和田康彦です。


前回のコラムでは、マーケティングとは、「顧客を創造し、維持するための活動」であることをお話ししました。



今回は、顧客を創造し、維持するために重要なキーワードをお話ししたいと思います。


そのキーワードとは、ずばり「価値」です。あなたもふだん何気なく「価値」ということばを使うことがあると思いますが、「価値」についてきちんと把握しているでしょうか。


◆女性は化粧品というモノではなく「美しくなる」という価値を買っている。

たとえば、化粧品を買う女性をイメージしてみましょう。化粧品原料の主なものは油脂・ロウ類をはじめとする油性原料、界面活性剤、保湿剤、防腐剤、殺菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、色材類、香料などです。


また、ビタミン、アミノ酸、ホルモン、天然抽出物などの特殊添加成分もあります。それらが、お肌をうるおす、使い心地や機能性を上げる、品質を安定させる、メイクアイテムの色数を増やす...など、さまざまなはたらきをしてくれています。


つまり化粧品は、いろいろな原料を組み合わせて製造した「物質(モノ)」なのですが、それを購入する女性は、果たして化粧品という「物質(モノ)」を買っているのでしょうか。イメージできなければ、奥さんや娘さん、周りの女性に聞いてみてください。


答えはきっとこのように返ってくると思います。「きれいになるためよ。・・・・」

そうなんです。女性は化粧品がもたらしてくれる「美しくなるという価値」を買っているのですね。


つまり女性は、化粧品という商品、モノを買っているのではなく、きれいになることにお金を払っているわけです。


この「きれいになる」ということがまさしく女性にとっての「価値」になります。

つまり、私たち企業が提供する製品・サービスは、顧客が抱えている「問題」を解決するための手段ともいえるわけです。


◆「顧客はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」顧客はベネフィットにお金を出している。

「価値」はどちらかというと企業視点の言葉ですが、顧客視点でみたときは「ベネフィット(便益)」と置き換えるとわかりやすいと思います。


マーケティング界の巨匠、セオドア・レビットは「顧客はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」とベネフィットの重要性を指摘しました。


ドリルが商品・製品で、ドリルによって空けられる「穴」がベネフィット(価値)です。企業が消費者に提案すべきはベネフィット(価値)であり、顧客が得られるベネフィット(価値)が分からずに製品・サービスを販売することはできません。


また、ベネフィット(価値)は一つの製品につき、一つのベネフィットというわけではありません。


ビールであれば、「のどを潤す」というベネフィットに加え「爽快感を得る」「ストレスを解消する」「美味しく食事をする」というベネフィットも得られますね。


つまり、顧客が享受するベネフィットが大きく、そのベネフィットに対して顧客が支払うコストがリーズナブルであると顧客が感じた時に初めて財布の紐を緩めるわけです。


このように、顧客を創造し、維持していくためには、顧客の期待を超えるベネフィット(価値)を提供し続けていくことが重要になります。


このように 、「価値」はどちらかというと企業視点からの見方、「ベネフィット(便益)」はどちらかというと顧客視点からの見方ととらえることができます。


今後当コラムでは、顧客視点から見た「ベネフィット」を使って、説明をしていきたいと思います。それでは、このベネフィットについてもう少し詳しく整理していきましょう。


◆機能的ベネフィットと情緒的ベネフィット

商品やサービスが顧客に与えるベネフィットは、「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」の2つに分けて整理ができます。


「機能的ベネフィット」とは、その商品やサービスの機能面や品質面において、顧客に提供できる便益のことです。


「情緒的ベネフィット」とは、その商品やサービスを見たり、利用したりした際に、顧客が体感できる精神的な側面での便益のことです。


「機能的ベネフィット」も「情緒的ベネフィット」も、企業側のひとりよがりではなく、顧客のニーズに結びついているかどうかが、最も重要なことです。


これだけの説明だとちょっとわかりにくいので、「ノートパソコン」を例に説明します。

通常、あなたがノートパソコンを選ぶ際は、CPUやメモリ容量、あるいは画面のサイズや重さなど、まずは機能面に着目するのではないでしょうか。いわゆる「スペック」を見て、性能の良しあしを判断しますね。


ただ、それだけで決めてしまうかというとそうではないと思います。たとえば、静かなカフェで仕事をすることを想像すると、キーボードのタッチ音の大きさや軽さも気になります。


また、最近は持ち運ぶことも多くなったので、周りから「できるビジネスマン」とみられるようなスタイリッシュなデザインであることも選ぶポイントになってきています。


このような、キーボードのタッチ音や軽さ、スタイリッシュなデザインなど、スペックだけで表すことができない、使ってみてはじめてわかる精神的な利点を「情緒的ベネフィット」と呼んでいます。


つまり、使う人の感性や感情を豊かにしたり、心地よくする価値が「情緒的ベネフィット」といえます。情緒的ベネフィットは、直接パソコンの性能には関係ありませんが、使う人の好き・嫌いという気持ちにつながる重要な要素といえます。


このように、商品やサービスが顧客に提供するベネフィットは、機能的なベネフィットと情緒的なベネフィットから構成されており、それらのベネフィットを掛け合わせたものが商品価値の総和となり、その価値の大きさで売れる売れないが決まってしまうといっても過言ではありません。


◆アーカーのベネフィット3分類。これから重要になるのは「自己実現ベネフィット」

一方で、ブランドの神様といわれている経営学者のデイビッド・A・アーカーは、このふたつのベネフィットにプラスして「自己実現ベネフィット」を提唱しています。


アーカーのベネフィット3分類と呼ばれる考え方で、①機能的ベネフィットは、商品サービスが持つ機能的な特徴、性質に関するベネフィットです。代表的な視点としては、便利・安い・早い・簡単・軽い・薄い・頑丈などがあります。


次に②情緒的ベネフィットは、商品サービスを通してユーザーが得ることのできる、感情に関わるベネフィットのことです。例えば、安心感・高級感・楽しさ・かっこよさ・スタイリッシュさ・充実感などの視点があります。


そして③自己実現ベネフィットとは、商品サービスを手にすることで可能となる、自己表現・自己実現に関するベネフィットのことです。例えば、自分らしくいられる、自分に価値が感じられる、ありたい自分に近づけるといった視点があります。


たとえば、包丁を例に3つのベネフィットを整理すると、

包丁の機能的ベネフィットとしては「よく切れて便利」「取っ手が滑りにくくて安全」・・・・、

情緒的ベネフィットは「よく切れるのでイライラから解消される」「手を滑らすことなく安心して使える」・・・・・、

そして、自己実現ベネフィットは「良く切れるので料理に自信が持てた」「何となく料理がうまくなった気がする」といった感じです。


最近は、機能的なベネフィットでの差別化が難しくなり、情緒的なベネフィットや自己実現ベネフィットの創造が重要になってきています。どの企業もブランド戦略に力を入れているのはまさにそのためです。


また、女性が消費の主導権の8割を握る時代においては、ますます女性の感性に訴える情緒的ベネフィットや自己実現ベネフィットの訴求が重要になってきます。


機能的ベネフィット×情緒的ベネフィット×自己実現ベネフィット=企業価値であることは、iPhoneを発売するアップル社が時価総額世界一位であることでおわかりいただけると思います。

生活者と小売の未来研究会〈Lifevaluelab.〉

小売業は、生活者の心と暮らしを豊かにする「幸せ創造業」です。未来の予測が難しいニューノーマル時代こそ、揺れ動く生活者の気持ちにしっかり寄り添い、自社の専門DNAを軸にして「顧客が求める価値」を提供していくことが生き残りの鍵を握っています。さぁ、私たちと一緒に、生活者も小売業も共に成長し幸せになる未来を研究・創造していきましょう。

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