ニューノーマル時代は、生活者にとって便利で幸せなライフスタイルを提供できる小売業だけが生き残る。

みなさんこんにちは、生活者と小売の未来研究会の和田康彦です。

まずは、こちらのポスターをご覧ください。


このポスターは、大阪の門真市にあるパナソニックミュージアムで見つけたものなんですが、平安の頃から現代に至るまでの洗濯スタイルの進化を表したものです。

ご覧にように大昔は、かがんだ姿勢で、たらいと呼ぶ桶に水をためて洗濯していました。そして明治時代中期になると洗濯板が発明されて、洗濯板に洗濯物とせっけんをこすりながら洗濯するようになりました。その後1920年代になると、ようやく電気洗濯機の原型のようなものが生まれきて、洗濯の機械化が始まります。そして1960年代の高度経済成長期には全自動洗濯機が発明されて、洗濯から脱水まですべての工程を自動でしてくれるようになりました。さらに2000年に入ると、腰をかがめることなく洗濯物を入れたり出したりできるユニバーサルデザインのものが開発されて今に至るわけです。

こちらのポスターには次のように書かれています。

「家事の歴史は前かがみの歴史。長い間負担を抱えていたのは腰そのものでした。私たちは、この問題に科学の目を向け,一つの答えを見出しました。それは30度傾けた洗濯槽。誰もが楽な姿勢でお洗濯できる形です。家事を優しい労働にしていくためにナショナルのこだわりは続きます。」

このナショナルというのは、現在のパナソニックの前に使われていたブランド名です。パナソニックミュージアムでは、これまでの家電製品の変遷とともに人びとのライフスタイルの進化についても学べますので、コロナ問題が収束したらぜひ一度足を運んでみてください。

さて、洗濯機の進化の例からもわかるように、これから先も、人びとのライフスタイルは、より便利で幸せな暮らし方を求めて変化していくことが推測されます。つまり、どんな企業にとっても、生活者にとって便利で幸せなライフスタイルを提案していくことがますます重要な時代になってきている、といえるわけです。

また別の見方をすると、「ライフスタイルと人びとの幸せ」というのはとても関係が深く、私たちは、日々、幸せを体感できるライフスタイルを求めて生きている。と言うこともできます。


ではライフスタイルはどのようなことがきっかけとなって、変化していくのでしょうか。例えば、

今まさにコロナウィルス戦争と言ってもいいくらい大きな社会環境の変化に直面しています。

一方で テクノロジーの進化が進み、これまでよりも100倍も高速でかつ大容量の5Gというサービスが始まろうとしています。

今回のコロナ対策で、在宅勤務や遠隔授業が当たり前になってきています。そして5Gのような通信サービスが浸透してくると、今後は、わざわざ会社に行って仕事をする、あるいは学校に行って授業を受けることがことさら重要でない、と考える人が増えていくかもしれません。

同時に、これまで通勤や通学につかっていた時間をもっと有意義なことに使いたいという欲求が生まれてくるかもしれませんね。そうすると、家の中で快適に仕事や学習ができる環境をつくりたいと考える人や、空いた時間をジョギングやウォーキングに充てる人が今よりも増えていくことが予想されます。

つまり、下の図のように、社会環境やテクノロジーの進化によって、人びとの意識や価値観が変化し、その結果、欲求やニーズにも変化が起こって、ライフスタイルそのものも変えていくという流れになるのです。


日本では2008年にアップルから初めてのスマートフォン「iPhone」が発売されました。それからまだ10年余りですが、その間の人びとのライフスタイルの変化には目を見張るものがあります。

買物はスマホ上で済ませることができるようになり、SNSを通して世界中の人と繋がることができるようになりました。また不要になったモノをスマホ上で売り買いできるフリマアプリや、自分が手作りしたものを売り買いできるハンドメイドアプリが生まれました。

また、ニュースも音楽も動画もスマホひとつあれば楽しめるようになりました。最近では支払いもスマホで済ませることができます。

このように、テクノロジーの進化は私たちのライフスタイルを大きく変える原動力になります。

先ほども申しあげたように、これから次世代通信サービス5Gが生活に浸透してくると、私たちのライフスタイルは、さらに便利に変化していくことは間違いありません。

つまり、これからの商品やサービスの開発は機能や性能といったモノ発想から、その商品やサービスによってどんな幸せな暮らしを提供できるのか、というライフスタイル発想へ転換していかなければ、世の中で受け入れられることはないということです。


例えば先ほどの洗濯スタイルの変遷でお話ししたパナソニックは、今までにない発想でイノベーションを起こす仕組みを作ることが目的に、シリコンバレーに新開発拠点「パナソニックβ」を開設しています。

スタッフはパナソニックの各部署やカンパニーから選ばれた若手の精鋭、約30人で、普段の生活と同じ空間で発想するため、オフィスにはキッチンや調理器具もあり、すぐに料理することもできます。

開発テーマは「人々の生活や行動と家電をどう連動させるか」であり、まさにライフスタイル発想をベースとした研究機関といえます。

これまでの話で、ライフスタイルの概念を少し理解していただけたと思うので、ここでライフスタイルについて学術的に整理しておきましょう。

ライフスタイルとは、

人びとの生活様式、行動様式、思考様式といった生活諸側面の歴史的、文化的、社会的、集団的な差異を総合的に表し、多次元的な生活意識を包括的にとらえる複合的な概念です。

元々は、社会学の分野で使われていた言葉なんですが、アメリカのマーケティング分野で初めてライフスタイルの問題が取り上げられたのは1950年代終わりの頃と言われています。

ウイリアムレイザーという人が、マーケティング学者としていち早く「ライフスタイルは、総合的かつ広い意味に解釈すれば、社会全体あるいはその一部のセグメントに特有な、他から区別される特徴的な生活様式をさしている。」と「ライフスタイル」のコンセプトを提唱し定着させました。

つまり、ライフスタイルとは、ある文化または集団の生活様式を表現し、かつそれらを他の文化や集団から区別するような独自の要素や特徴を意味しているわけです。

次に、日本で「ライフスタイル研究」が注目されだした背景(1962年頃~)について見ていきましょう。

まず1番目の背景としては、「生活の質」を志向する社会の出現~つまり量から質への転換~という社会変化があげられます。次回以降の授業で詳しく触れていきますが、1960年代の高度経済成長の反動から、1970年代に入ると「人間性回復」「生活中心志向」へと世の中の流れが大きく変化していきました。

そして、1973年のオイルショックを契機にその流れは決定的なものになっていくわけです。

人々の関心は、物的・量的に充実を求める「生活中心主義」から 精神的充実を求める「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の追求」へ。

また技術がリードする時代から生活がリードする時代へ大きく転換していきました。それと共に、安全や健康に対して人びとが強い関心を持つようになっていきました。

このような「生活の質」を志向する社会の出現が、「ライフスタイル研究」に関心が集まりだした1番目の背景です。

2番目の背景としては、消費者志向から生活者志向への転換があげられます。

消費者は、単に与えられたものを買うのではなく、自分にとって快適な生活システムをコーディネイトするために、自分の好きな生活スタイルを選択するのである、という考え方の広まりです。

同時に消費行動は、必ずしも所得水準の高い低いで左右されるものではなく、行動の背後にある、複雑な生活欲求構造によって大きく影響されるものであるという考え方が浸透していきました。

つまり、消費行動を決定する人々の意識は、単なる合理的な経済計算に基づいた受け身の消費意識ではなく、主体性をもって能動的に自らの生活を創造・設計していく生活意識へと変わり始めている、という考え方が、ライフスタイル研究に関心が集まった2番目の背景です。

3番目の背景としては、マーケット・セグメンテーション基準の再検討、つまり人口学的要因の限界があげられます。

日本は、戦後の経済的な繁栄とともに、新しい文化、社会通念が生まれ定着してきました。それによって、人間の行動は様々な特徴を示すようになったわけです。

このような価値観が多元化し、生活行動が異質化していくと、それに合わせて、マーケティング戦略も的確に適応させていかなければいけません。

そのためには、従来からの、性別・年齢・地域、職業、学歴、所得水準といった人口学的指標で細分化するだけでは不十分であり、

新しい指標として、消費者の欲求、価値観、パーソナリティ、生活空間、生活構造などを包括する概念としての「ライフスタイル」が顧客の細分化をしていく新しい基準となってきたわけです。

このように、生活者の嗜好や考え方が、量的なモノから質的なモノへ向かう中、従来の発想や分析では生活者の変化をとらえられないというところから、日本でも「ライフスタイル研究」が注目され出したわけです。

少し難しい説明になったかもしれませんが、これからは、時代と共に変化して来た人びとのライフスタイルやニューノーマル時代のライフスタイルがどう変化していくのかについて考察していきたいと思います。 

生活者と小売の未来研究会〈Lifevaluelab.〉

小売業は、生活者の心と暮らしを豊かにする「幸せ創造業」です。未来の予測が難しいニューノーマル時代こそ、揺れ動く生活者の気持ちにしっかり寄り添い、自社の専門DNAを軸にして「顧客が求める価値」を提供していくことが生き残りの鍵を握っています。さぁ、私たちと一緒に、生活者も小売業も共に成長し幸せになる未来を研究・創造していきましょう。

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